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勝者のいない戦いーウクライナ対ロシアにみる現代戦争の終わらせ方
2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻し、7か月の月日が流れた。憶測だが、BBCは6月22日までの4か月でウクライナ側の死者が10,000人を超えたと報じた。一方のロシア政府は、ロシア側の死者を3月25日に1,351人と発表して以降、公表していない。英政府は4月25日に15,000人のロシア兵が、ウクライナ政府は6月27日に35,450人のロシア兵が死亡したと報じ、9月中にロシア側の死者が7万人を超えたと推測している。検証は出来ていないが、概ね日に約400人が死亡した計算である。当初、これほど長引く事態を予測しなかったプーチンであるが、ここにきて30万人規模の予備兵役の志願をロシア国内の民間人に呼び掛けた。予備兵を招集し戦局を一気に打開したいプーチン政権の狙いは分かるが、職業軍人でない民間からの志願動員で結成された部隊が戦闘威力を発揮できるほど「現代の戦争」は単純ではない。
それにしても戦後77年も経過した2022年になり、ドローン兵器が登場したとはいえ、未だに戦車や銃による第二次世界大戦当時と変わりないレトロな戦法の戦闘が続く点には違和感がある。今、日本を含め世界の国々が躍起になって国防費や軍事費を高めている要因は、大量破壊兵器や、化学・生物兵器に対する費用であり、さらにはGPS機能を備えた小型ドローンやによる無人兵器、また宇宙空間を移動する長距離弾道ミサイル、そして水素爆弾、核爆弾に対する設備投資である。今回のウクライナ対ロシアの戦闘を見るに、ロシアはより戦闘能力の高い大量の武器を所持し、その存在をちらつかせながらも使用に踏み切れない展開がある。
勝てば官軍、負ければ賊軍。過去の大戦を振り返るに、戦争はどの時代もある国が考える正義と別の国が考える正義が真正面から衝突することで勃発してきた。共に正義のための戦いでありながら、常々その結末では勝った側が正義となる。反面、負けた方には「戦争犯罪」という不義のレッテルが貼られ、多額の賠償金を支払う義務が科せられる。道理はどうあれ、かつての戦争では、戦勝国が敗戦国を外から中から徹底的に打ちのめすことで、戦争を終わらせていた。つまりそこには明らかな勝者と敗者の構図があった。
しかし現在のウクライナとロシアを客観視すると、侵攻されるウクライナは当然ながら必至に自国領土を守る姿勢を貫き、対する世界最強レベルの軍事力を誇るロシアは、世界一保有数の多い6,300発の核爆弾と生物化学兵器、並びにロシア軍秘密部隊のスペツナズ を総動員してウクライナ全土を木端微塵にする戦いの終わらせ方を想定していない。米軍にしても、「武器がない、弾丸が無い」と懇願するゼレンスキー大統領に対して、必要最低限の武器しか供与していない。つまりアメリカもこの戦争を完全に終わらせるほどの大量の兵器をウクライナに無償供与するつもりは無いのである。
国際平和と秩序を維持する「人道支援」のスローガンのもと、他国の領土で起きた戦いに自分に有利な側の国を長期にわたり軍事支援する方略は米軍のお家である。アメリカ軍の前線基地とされ1948年に勃発して朝鮮戦争は休戦維持のまま未だに終わりを見ない。1964年に始まり泥沼化したベトナム戦争が終結したのは11年後の1975年である。アラブの春以降もトランプ政権は長期間、シリア内戦とイエメン紛争で駐留を続けた。2001年9.11の同時多発テロから2021年8月のカブール陥落まで続いたアフガニスタン・タリバンとの争いは米国史上最も長い20年戦争と言われている。、第二次世界大戦以降の一連の米軍の方略をみると、米軍とてこの度のロシア軍と同様に決定的なダメージを相手国に与える戦争の終わらせ方をしていない。
ウクライナと戦うロシア軍、そして一連の米軍の行動をみて読み取れるのは、一進一退の長期戦で生じる政権の崩壊や経済の変化、または停戦合意という方法で戦争を終わらせようとしている策だ。その背景には、かつての世界大戦では必ず最後に戦勝国と敗戦国という構図があったが、現在の戦争では、一旦相手国を完全に打ちのめしてしまうと、直ちに第3国が攻め入り痛手の連鎖を生じる「勝者のいない戦い」、つまり二国間の戦争に戦勝国が存在しない構図がある。そもそも開戦しても勝者がない戦争は、翻れば共に負けて敗者になる可能性も含んでいる。国際社会が現在の戦況から学ベきことは、戦勝国の無い戦い、要するにウクライナとロシアのどちらの国も勝つ側のない、しかし敗戦する側も存在しない新しい戦いの終わらせ方を模索することであろう。
【引用URL】
ロシア予備役30万人動員へ https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220922/k10013832251000.html NHK News web (2022/09/22)
ロシア軍の死者・負傷者「7万~8万人に達した」 米国防省が推計 https://www.asahi.com/articles/ASQ8933WXQ89UHBI00B.html 朝日新聞 (2022/08/09)
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