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ブログ (社会課題)2022.10.01

自殺予防と動物愛護ー都市生態系における現代版進化論

 私には毎年、9月になると考えさせられる2つの啓発週間があります。9月10日の自殺予防デーに因んだ自殺予防週間 (9月10日~16日 内閣府) と、「動物の愛護及び管理に関する法律」 (動物愛護管理法) に基づく動物愛護週間 (9月20日~26日 総理府)です。 いったいなぜ、私たちの社会は、このような啓発週間を国家事業としてまで実施しなければならなくなってしまったのでしょうか…今回この問を考えるため、「現代日本の都市生態系」についてチャールズ・ダーウィンの進化論を基に論考してみます。

 

 政府が取り組むように、今日の自殺者の統計には痛ましさを感じます。1998年以降、本邦では大都市を中心に10年連続で毎年3万人以上の方が自殺で亡くなられていました。これは同時期の年間の交通事故死亡者数の約5倍の数です。この現実を受け、政府は2007年6月、自殺対策基本法に基づき推進した自殺対策指針として「自殺総合対策大綱」を策定しました。その甲斐あって2009年以後、10年連続して自殺数は減少しました。しかし2019年、未曾有の新型コロナウイルスの流行が始まるや2020年さらに2021年と追い打ちをかけ、再び国内の自殺者数が増えているのです。


  現代の都市で増えたのは人の自殺だけではありません。人間に都合よく飼いならされた動物たちの命も、都市生態系の変化にともない無意味な死を余儀なくされています。1973年、家庭動物、展示動物、産業動物 (畜産動物)、実験動物等の人の飼養に係る動物を対象に、動物の愛護と動物の適切な管理 (危害や迷惑の防止等) を目的に法が制定されました。1973年当初、全国の年間犬・猫殺処分数は100万以上 (1,121,000匹) と尋常でない数値でした。年々その数は減少しますが、環境省の統計によると2019年度にガス殺処分により安楽死された犬や猫など家庭動物の数は33,000匹に上りました。日本は動物愛護先進国と信じる人も多いと思いますが現実は後進国で、その処分数は先進国有数であることは否めません。

  産業動物の命の位置付けにしても、自然生態系における食物連鎖で淘汰される命と比較して、肥満大国化した人間社会の都市生態系は食物連鎖と呼べる生態系ではないでしょう。飼育される産業動物の環境や加工処分の方法についても日本は世界から非難を浴び、2015年に「産業動物の飼育及び保管に関する基準 (環境省)」が改訂されています。

 

 人間と動物が共存する上で、“人の命”だけが尊く、“動物の命”は人間を頂点とする都市生態系の一部なのでしょうか?

本来、生態系とはある地域単位の群集における物質、エネルギー、環境、食物などをひとつの単位として独立して成立していました。ところが、歴史とともに多くの探検家が富と名声を求めて大陸や大海を渡り、大陸間で文化や種の交流が起こりました。13世紀、マルコポーロは東方見聞録で20年をかけてユーラシア大陸を旅しました。16世紀、マゼランは3年の月日を費やし地球一周という大航海を成し遂げました。20世紀に世界各国は航空産業により24時間以内に結ばれ、21世紀になるとインターネットが全世界同時通信を可能にしました。 そして今日、生態系の環境単位は、地域生態系から、都市生態系、海洋生態系、果ては地球生態系、宇宙生態系へと驚異的に膨張し続けています。そのスピードたるや、ダーウィンが1859年「種の起源」で発表した進化論をはるかに上回るスケールです。

 

 約500万年前に最初の人類が類人猿から進化してから、この数百年のわずかな間に、人類は地球生態系を超スピードで全く別のものへと変化させました。地球は狭くなり、近代科学の発展とともに、われわれは、人類の誕生以降、初めて遭遇す る最も急速な地球生態系の変化の渦中で生活することを避けられなくなりました。そのような生活を強いられる現代社会で、「人間のこころ」は、自らが作り出した都市生態系の変化のスピードには、ついていけなかったようです…

 

 サルが自然環境の中で自殺するということはあり得ません。しかし猿人から紆余曲折して進化した現代人は、都市生態系での生活を自欲のままに選択したものの、いつの時代からか自らを深く病む病に取りつかれ、「自殺」という選択をするまでに負の進化を遂げてしまいました。今日の地球生態系に最も適応できていない種とは、本当は人間 (Homo sapiens) ではないでしょうか?




【参考URL】

令和4年度自殺予防週間の取り組みを公表します https://www.mhlw.go.jp/stf/r4_jisatsuyoboushukan.html 厚生労働省HP (2022/08/26)

令和4年度動物愛護習慣中央行事「2022動物愛護オンラインシンポジウム」 https://www.env.go.jp/press/press_00538.html 環境省HP (2022/09/09)

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