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ブログ (社会課題)2022.09.29

日中友好の大役を支えた2頭のパンダと2羽の朱鷺

 1972年9月29日、田中角栄首相と中国の周恩来首相が北京で日中共同声明に調印し、両国の恒久的で平和な関係性を約束しました。友好の象徴として上野動物園に贈られたジャイアント・パンダのランランとカンカンは、日本中に大フィーバーを巻き起こしました。パンダの稀少性もさることながら、その愛くるしさは日中両国を橋渡しするシンボルになりました。そして半世紀を経た2022年9月29日、両国は外交を重ねて無事に国交正常化50周年の節目を迎えることができました。


 日中友好の印はパンダだけではありません。トキ(朱鷺)は古くは日本中に生息していた野鳥ですが、近代以降は乱獲により日本産トキの数が激減しました。そして1999年、ついに国内に生息するトキは新潟県佐渡島に最後の一羽が残るのみと、絶滅の縁にありました。瀕する日本産トキの保護として、当時環境庁は中国の江沢民主席からつがいとしてヨウヨウとヤンヤンの中国産トキをもらい受けました。2羽は佐渡に残る最後の日本産トキと共に大事に育てられ子孫を増やし、10年後の2008年、佐渡市のトキ保護センターで絶滅した国内産トキに代わり中国産のトキが放鳥されました。27年ぶりに佐渡の空をトキが舞ったのです。この舞劇は、日中友好の互いの贈り物になりました。


 さて、もしパンダがあまりにも可愛すぎる大型哺乳動物でなければ、当時の日本国内でランラン・カンカンのブームは起こらなかったでしょう。また希少種の命は珍重されますが、日本産トキとてもとは日本人が地域の生態系を犯した罪の代償にほかなりません。保護され野に放たれたトキは年々その数を増し、現在では佐渡島の自然繁殖だけで推定400羽を超えています。そして最後まで生息していた日本産トキはその命を引き取りました。トキは地域観光の柱ですが、近年では田植えの稲をトキが脚で荒らす害鳥被害が増え、地元農家はその対策に追われています。またそもそも佐渡島に生息していた稀少種のサドガエルをトキが捕食してしまうことで、今度はサドガエルの生息数が激減し、農村生態系の変化が問題視されています。2021年6月、環境庁は増えすぎたトキの対策として、佐渡のトキを全国に放鳥する方針を固めました。


 今から当時を顧みるに、日中両国の関係性は共に互いを尊重しあう関係性でした。そして、その橋渡しとして希少動物であるパンダやトキが贈呈されました。人間の都合で住み家を変えたパンダやトキには何ら関係ない話ですが、今日の両国の関係性は尖閣諸島の領有権や台湾有事問題も絡めて、可愛いらしい珍しい動物の供与だけで仲を戻すような関係性からは遠く離れています。しかし地政学的に両国の地図上の距離が今以上に離れることなどありません。未来永劫、離れることが不可避な隣国ならば、いっそ政治も国民もいがみ合うより模索する道を探さないことには発展性は望めません。これ以上、次なるパンダやトキをどれだけたくさん並べだとしても、何一つ解決する策などないでしょう。日中友好50周年のニュースとともに、両国の関係性において大きな役割を演じてきたパンダやトキについて振り返ると、私はお礼をしたい気持ちになるのと同時に、人間の傲慢さを思えてなりません。日中両国がともに50年先の未来を見据えて、利害や競争より理解と協調に向けて矛先を進めてほしいと願うばかりです。





【参考URL】

トキが増えすぎて「もはや害鳥」佐渡の住民が困惑  https://www.dailyshincho.jp/article/2020/03020556/?all=1 週刊新潮 (2020/2/27日号)

佐渡島だけでなく本州でもトキ放鳥の方針決定 https://www.yomiuri.co.jp/national/20210621-OYT1T50079/

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