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ケアをする人のケア (ヤングケアラー問題)
厚生労働省は2021年3月17日、大人に代わって家族の家事や介護を行うことを日常的に迫られている子どもである「ヤングケアラー」に関する初めての検討会を開催した。これを受けて4月12日、厚労省と文科省は合同で「国内におけるヤングケアラーの実態調査研究」を報告している。報告書によると、中高生のおよそ5% (中学2年生の5.7%、高校2年生の4.1%) が何らかの疾患を持つ高齢の祖父母の介護や、発達障害と診断されている兄弟姉妹の世話、また家庭の家計を支えるためのアルバイト等を理由として、一日当たり平均4時間を費やしている生活ぶりが浮き彫りになった。相対的にみてこの実態は、同年齢の子ども達に比べると圧倒的に自分自身のために利用できる時間が確保できていないことを意味している。こうした問題の根底には、地域単位で介護士やヘルパーを共助として利用する福祉補助制度が十分認識されないまま「これは家族の問題である…」として他者に相談できずにケアラー自身が一人無理をしてしまう、家族単位で介護を担うことを避けられない地域文化がある。また日本社会特有の問題として、少子高齢化や核家族が加速したことにより、介護者を家族内で分担できない問題がある。また2019年には女性が87.45歳、男性が81.41歳と日本人の平均寿命は年々延びているものの、実際に自立した生活が可能とされる健康寿命との間には約10年もの開きがあり、こうした現実もヤングケアラーが増加した一因であろう。加えて、家族内で家事を分担せざるを得ない状況のヤングケアラーの比率が特に高い家庭では、父子家庭や母子家庭などのひとり親世帯が多いことも報告された。つまり行き着くところヤングケアラーの問題の議論は、世帯収入を考慮した子どもの貧困の問題とも絡めて、双方向の解決を目指した福祉連携策を構築する必要がありそうだ。
ヤングケアラー問題は、イギリスやオーストラリアでは2000年台前半から国を挙げた政策が進んでいる。イギリスでは前トニー・ブレア政権時代、2003年4月に起きた「ヴィクトリア・クリンビー虐待事件」に対する子ども福祉策として ”Every child matters ーどの子どもも大切" とした政策が施行された。同時に、貧困の子どもを撲滅するとともにヤングケアラーについても地域社会の様々なチャンネルをコーディネーションする「コミュニティーケア方式」の地域支援が実践されてきた。また国民にヤングケアラー問題を広く知っていただくために、イギリス政府は毎年3月16日を「ヤングケアラー・デイ」と設立し、社会への啓発活動や介護福祉の有り方を国家の問題として論じている。
一方、日本ではこの問題に対する議論は、まだ始まったばかりである。厚生労働省はイギリスの成功例を手本として「ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム」を発足する構想を発表している。この問題は65歳以上人口が3,600万人、人口の約29%を抱える超高齢社会となった日本政府としても、国家を挙げて議論を交わすべき問題である。その解決策を練るために最も有効と思われる実施主体は、地域自治体レベルの共助と公助であろう。ぜひケアラー支援に地域単位で差が生じないよう、全国で足並みをそろえて丁寧に取り組むんでいただきたい課題である。この度の報告で中高生の20人に1人がケアラーである日本国内のデータがようやく浮き彫りになった。ぜひこの機会に地域自治体を主体とした「ケアをする人のケア」を支援する事業の始動と併せて、子どもの貧困や子どもの福祉に対する政策が展開するよう要望したい。
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