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緊急事態宣言の延長と新しい自己責任論
欧米社会には自分の考えや意見を重視する文化が存在する。彼らは「何があっても自己責任である」という原則を幼小から社会の中で体得し、その感覚を自然に身に付ける。欧米社会のみならず、人口の過密した中国北京やインドネシア、また弱肉強食の発展途上国で生き抜いた背景を持つ人々は、すべての行動の責任が自分自身にあることを成長する過程で本能的に獲得していく。そうした国家や社会では誰かが自分を保証してくれる万全な制度はなく、すべては自分で道を切り開かねばならない。
一方、日本人はどうか。特に疑問を持つことなく周囲と同じように行動する感覚を身につけている。その習慣は幼少期から始まり小中学校の義務教育や社会生活とともに個人の中にいつしか形成されていく。如何なる緊急事態が起きようとも教えられた全体の規則を無視する自分に「罪悪感」を感じないではいられない。ヨーロッパ諸国においてドイツ人は厳格に規則を守る民族とされるが、彼等とて日本人ほど厳格に一律な行動をとることはない。衣食住が人の親切と国の制度に保障される日本社会では、日常生活で自己責任を自覚して行動する場面は極端に少ない。それは皆が無意識に国や地方、親、有力者、その他上からの圧力や標識に従順に従い同じ行動をしているからであろう。その理由は簡単である。我々が受けてきた義務教育システムでは、どれだけ忠実に見本や手本を再現できるかが成績の重要な評価基準となるからだ。その行動には際立ったオリジナリティーが発揮される必要がない。右に倣え、上の者には巻かれろ、心を無にして指示に従え、連隊責任…こうした教育を当たり前の様に受けてきた世代が官にも政府にも日本社会の中核にいることは間違いない。
しかし緊急事態宣言が拡大したこれから数か月先を見つめた時、本当に個人の衣食住が公助、共助だけで保障されるのだろうか。私は日本人の行動様式が徐々に変わり始めていることを実感している。通常の平時であれば、政府のマニュアルに忠実に従ったであろう人々の行動と流れは、この度の「がまんのゴールデンウィーク」以降、見事に様変わりしつつある。5月18日に内閣府が発表したGDP (国内総生産) は年率換算で-5.1%と減じ、その落ち込みはリーマンショックがあった2008年の-3.8%を超えて戦後最大となった。私はこの数値を見て、衣食住を本当に国が保障してくれるあての無い現実が見え始めたものと解釈している。現に十分な援助金、支援金が供給されずに、多くの失業者、非正規労働者のコロナ切り、そして企業の倒産が相次いでいる。都市の逼迫した医療体制の補填もこれ以上は難しいだろう。マスメディアも何処かで誰かが集まり政治資金パーティーをしたとか、省庁の役人が二次会三次会を開いてクラスターが発生したとか、そうしたつまらないことを追求し叩く暇があるなら、もっと政府のコロナ対策の甘さを厳しく鋭く批判するべきである。
大都市では緊急事態宣言下にあるものの、自分を守るため、家族をまもるため、店を守るため、事業を守るため、多くの人が行動倫理に迷いを感じつつも自ら判断して、休業要請の中で非難を受けながら店舗の営業を続けたり、SNSを通じて悲痛な叫びを社会に拡散している。そしてそれを支える数多くのクラウドファンディングが立ち上がっている。日本人が臨機応変な行動を取ることの難しさは、東日本大震災の際の「つなみてんでんこ」という言葉を「薄情だ」と捉えた調査結果が表しているかもしれない。しかし年を跨いでコロナ禍が続く現在の新しい日常は、今までとは180度異なっている。今こそ私たちは政府の指針や法に従うことの意味と新しい自己責任論について、国際的な視野から考えてみるべきではないだろうか。
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