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オリンピックは政治のプロパガンダではない
感染症と国際保健が専門で政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の会長である尾身茂氏は、20年間のWHO在籍中に西太平洋地域からポリオを根絶し、2003年には西太平洋地域事務局長としてSARSを制圧し、2009年の新型コロナウイルスパンデミックでは政府の専門家諮問委員会委員長を務めた人物である。2016年には国連議長から国際的な公衆衛生危機対応のタスクフォースメンバーの要請も受けている。今月6月2日の衆議院厚生労働委員会で尾身氏はプロフェッショナルとして責任のある立場から「今の状況で大会をやるのは、普通はない」と開催ありきの政府の姿勢に警鐘を鳴らした。当該分野で世界的に信頼されている尾身氏の意見に対して、法学部経済学科出身の田村厚生労働大臣は「自主的な研究成果の発表だと受け止める」と述べている。尾身氏のこの警戒が自論でないのは誰の眼にも明白である。今まで散々「専門家の意見を参考に、今後の方針を検討していく…」とした旨の発言を繰り返してきた最中のこの稚拙な切り替えしは、全くの茶番劇としか言いようがない。尾身氏の科学的根拠ある発言をまるで臣下に対する謀反とでも捉えたのだろうか。当然だが、ここにきて政府与党と分科会専門家との溝が一気に深まった。
そもそも都合のいいときだけ専門家に頼り意向に沿わない時には専門家を排除する政府の姿勢は、新政権発足直後に6名の学者を排除した日本学術会議つぶしの時から露骨であった。多様な意見をインクルーシブに取り入れて未来に進むべき時代に、自分の意見と反するプロパガンダを掲げた人物を素知らぬ顔で逐一と粛清する態度こそ厳しく粛正されるべきではないだろうか。ブラックにせよグレープにせよカウンターにせよ、政治家はオリンピックを自分たちのプロパガンダにすべきではない。
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