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平和への戦いに終わりはない
平和の祭典を象徴するオリンピックには、世界の様々な国や地域が一堂に会してスポーツを通じた交流をすることで新しい協調の路線を築こうとする目的がある。しかしコロナが蔓延る2021年、世界を見渡すとコロナウイルスワクチンの争奪戦や、東南シナ海やG7の中国との外交摩擦はおろか、ミャンマーでは軍事政権が市民の民主化運動を制圧し、香港では中国国家安全維持法のもと民主主義が屈するなど争いが絶えない。とりわけ5月27日、国際連合(WHO)が全世界に9,500万ドル(約100億円)の緊急援助金を呼び掛けたのが、イスラエルとパレスチナ武装勢力の衝突による紛争で壊滅的な被害を被った「ガザ地区」に対する支援である。日本政府も即応し、6月4日に1,000万ドルの緊急無償資金協力を発表した。
国内ワクチン接種率60%を世界最速ペースで3月末に達成したイスラエルと、同時期にコロナワクチンの第一便すら到着しなかったガザ地区の間で勃発したこの争いの発端は小さな出来事だった。2021年5月7日、東エルサレムへのユダヤ人入植者が、パレスチナ人住民に立ち退きを迫った。住民の立ち退きに抗議したパレスチナ人はデモ隊を組みイスラエル警察との間で軍事衝突に発展、次第に争いは膨れ上がり、二国間で緊張が高まった。3日後の5月10日、イスラエル警察はユダヤ人の立ち入りを禁じてイスラム教徒の集まる旧市街への道を封鎖。加えてイスラエル警察が聖地であるモスクに立ち入った行為がパレスチナ人側の不満を抵触して戦いが爆発。ガザ地区からエルサレムに向けて多数のロケット弾が発射され、これにイスラエルが空爆で応戦したことで本格的な軍事衝突が起きた。この交戦は10日間続き、ガザ地区を中心に双方で約70人の子どもを含む250人以上が死亡。その他、2000人以上が負傷し、7万5,000人が避難民となる大惨事となっている。WHOや国連児童基金(UNICEF)の力が及ばぬ中、地域の中核をなす大国であるエジプトが仲介国となり「相互かつ無条件の」停戦提案を提唱。これにイスラエル政府とハマスの双方が合意したことで戦争は終了している。
世界トップレベルの軍事力を誇る核保有国のイスラエル軍であるが、この度のパレスチナロケット砲撃や風船爆弾による散発的な無差別攻撃に対処するため、短距離ロケットを標的として迎撃し空中で爆破するIT装備「アイアンドーム」を用いている。昨年日本でもイージスアショアの配備が性能と予算の面で問題視されたが、この戦いでアイアンドームが実証したハマス側からの数千発のロケット砲弾に対する空中的中率は、実に90%以上とまさに鉄の天井が証明された。さらにイスラエル軍は、弾道ミサイルや敵の航空機、中長距離ロケットを担う次世代の広域防空兵器「ダビデのスリング」などを開発し、より先進的かつ重層的な防空戦のシステム構築を行っている。昨年9月にアルメニア軍とアゼルバイジャン軍が衝突したナゴルノ・カラバフ紛争ではトルコ軍も相応し、最新のドローン攻撃への対策として航空機からドローンを撃墜できるレーザー兵器を実践利用しているが、こうした多角的な迎撃ミサイル爆破システムは次世代のIT戦争には欠かせない主要装備といえる。
翻れば、地政学的に海に囲まれる日本が水際防衛だけで国を守れた時代は疾うの昔。防衛省は急遽この5月に1兆円以上の国費を投じて防空迎撃を主眼にイージスシステム搭載艦2隻の配備を決定した。
紀元前4世紀、プラトンは「国家」に理想の国家像を発表し、15世紀にトマス・モアは名著「ユートピア」の中で「戦争で得られた名誉ほど不名誉なものはない」と記している。ユートピア思想が平和主義の礎として揺るぎないインパクトを及ぼし500年以上が経過した2021年、世界は5年ぶりの平和の祭典を迎えているが、未だ人類の平和との戦いには終わりが見えていない。
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