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ブログ (社会課題)2021.09.23

国際テロに対する武力紛争法・国際刑事法の法整備が求められている

 2021年8月30日にタリバンが勝利したアフガニスタン戦争は、本質的にはアメリカ対アフガニスタンの戦争ではない。米軍が中心となりアフガニスタン政府・イギリス・フランス・ドイツ・イタリア・オランダ・カナダ・オーストリア・ニュージーランドの同盟軍が、アルカイダ・ウズベキスタンのイスラム軍事組織と手を組むタリバン勢力を相手とした対テロ組織戦である。長き戦いに勝利し9月8日、タリバンは暫定新政権として30人の閣僚人事を世界に発表した。国際社会はアフガニスタンを国として「国家承認」している。しかし国連加盟国であるアフガニスタン政府を武力で制圧して誕生したタリバン政権を正式に「政府承認」するだろうか。それともタリバン政権を9・11アメリカ同時多発テロ事件に関わった国際的な犯罪組織として政府承認しないのだろうか。現在、各国政府はタリバン新政権をアフガニスタンの政権として正式に政府承認するか否かの岐路に立たされている。


 そもそもタリバン側のテロ行為は、2001年9月11日のニューヨーク世界貿易センタービル・米国国防総省などに対するハイジャック機突入に端を発している。このテロ行為は国家の安全を脅かす許されざる行為で、国際社会は国連憲章やジュネーブ法規に基づき、国際司法裁判所や仲裁裁判所を通じて国際法的処罰や解決法を検討するべきであろう。しかしその国際法的な枠組みにも問題がある。通常、国家間の戦争であれば、武力紛争法が適用される。本法は紛争当事者を国家に限定しないにせよ、領域支配に基礎を置く実態を基本に据えている。また領域支配を目的とする紛争を規律対象としている。適用範囲に関しても場所的な制約がある。つまり武力紛争法の適用は、紛争が生じている領域を限定し、国際刑事法の適用を除外することで、紛争原因に関する価値判断をせずに紛争当事者を平等に取り扱うのが原則である。では9・11テロ事件を実行したアルカイダはというと、基本的にウェストファリア的な領域支配を目指している団体ではなく、将来的に国家を建設する目標がない。さらにテロは本質的にグローバルなものであり、特定の武力紛争地域に限定されていない。ならは9・11テロ事件を大規模な犯罪行為とした場合、国際刑事法を適用してはどうか。しかし刑事法的な観点からしても、実行犯であるテロ組織が特定の国家としてアフガニスタンと結びついているため、容疑者所在国における裁判あるいは利害関係国である米国への適正な引渡しが難しい状況がある。加えてアフガニスタン政府の統治力が国内外に散在するテロ組織に浸透していない。ましてや国際刑事法は国家が私人の犯罪行為に無関係であり、犯罪者の所在国の真摯な協力を前提としているため、国家内に存在する国家の境を超える国際テロ組織に当てはめるにも自ずと限界がある。


 2000代年以降、国家の統治機能の内実が個々の国家によって大きく異なるようになった。そして今日、国家と異質な構造を持つ組織や団体がグローバルに活動する巨大な力で国家を裏からコントロールしている実態がある。武力によりアシュラフ・ガリ大統領を国外に追い出し樹立した「タリバン新政府」の誕生は、正にこの問題を凌駕するに至った実例といえる。今さらアフガニスタンに誕生したタリバン新政権を国際犯罪テロ組織として国際法で処罰するには現状に限界がある。国際テロ組織の活動を撲滅するにはまだ長い月日を要する。他方でテロ組織へ報復措置を仕掛けることは、子供や民間人を捲き込む新たな戦争の引き金に直結しかねない。国際社会の安全を国際法的に遵守するためにも、国家以外の勢力によるテロや武力紛争に対応可能な武力紛争法・国際刑事法の新たな法整備が早急に求められている。

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