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核爆弾の投下はヒロシマとナガサキだけではない
2021年10月4日、菅義偉総理大臣の後任として第100代内閣総理大臣に岸田文雄氏が就任した。これを受け2017年にノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)・核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は、核兵器廃絶に向けて岸田首相に書簡を送った。書簡には来年3月に開催が予定される核兵器禁止条約(NWC)会議への参加要望が盛り込まれている。唯一の戦争被爆国でありながら、日本は未だこの核禁止条約に署名していない。元衆議院議員の祖父と父ともに広島県出身の岸田氏は、今まで度々核軍縮の必要性を広く世間に強調してきた。
日本は、そして世界はこの先何時まで核の恐怖と共存しなければならないのか。1945年8月6日にナガサキ、8月9日にヒロシマに原子力爆弾が投下され、今なお多くの被爆者がその被害による後遺症に苦しんでいる。その後75年の月日が流れるが、世界は東西冷戦を経験し、核によるパワーバランスの均衡が世界平和を維持する鍵のように論じられた。しかしその間にも世界は15,000発とも20,000発とも推し量る無数の核爆弾で溢れてしまった。
歴史を振り返ると、核爆弾の投下はヒロシマとナガサキだけではない。そもそもナガサキに原爆が投下される以前、1945年7月16日に米国ニューメキシコ州アラモゴードで世界で初めてのプルトニウム濃縮型の核実験「マンハッタン計画トリニティ実験」が行われた。この実験を以ってして、人類はけして開けてははいけないパンドラの箱を開けてしまったのだ。それから束の間、僅か21日後にはナガサキ、24日後にはヒロシマに原爆が投下されてしまった。以降世界中で現在までに2,000回を超える核実験が繰り返され、人類は時を戻すことが出来なくなった。
核保有国が行ってきた核実験の裏には共通する一つの倫理的問題がある。1949年にロシアはカザフスタン・セミパラチンスクや北極海、1952年にイギリスはインド洋東部・モンテベロ諸島太平洋、1960年にフランスはサハラ砂漠ほか、かつての植民地であるアルジェリアや南太平洋仏領のタヒチ・ポリネシア島、そして中国は1964年ウイグル自治区で核実験を実施してきた。さらにアメリカは広大なネバダ砂漠ほか様々な地域で繰り返し実験を励行している。つまり今日の核保有国は、自国首都から遠く離れた支配地域である植民地や原住民の住む地域、そして環境破壊の目が他国から届かない地域で核実験を繰り返してきたのである。
こうした核実験の背後で国家に隠された被爆者がどれだけ存在しているのか。公開されている情報が限られ正確な数は分からない。しかし核爆弾投下の被害はヒロシマとナガサキだけではない。戦後1954年3月1日、我々はヒロシマとナガサキに続いて日本人被爆者が出た水素爆弾実験を絶対に風化させてはならない。コードネーム「ブラボー」と称されたこの水爆実験は、太平洋マーシャル諸島・ビキニ環礁で事前予告なく行わた。当時のこの地はアメリカ軍占領下にあった日本の委託統治領であり、日本の漁場でもあった。爆心地から約160km沖合でマグロ漁をしていた日本の漁船・第5福竜丸が、不幸にして放射能の死の灰を浴びてしまったのだ。この実験で船上の日本人のみならず周辺地域の多くの住民に放射能被爆者が出たことを受けて、この実験を施行した米国は一時期頻回に地域調査を行った。しかしその主な目的は人体に与える放射能被爆の負の影響の調査で、最終的に治療や補償問題の全面介入には至らなかった。米軍によると、ヒロシマの投下から9年半後に落とされたこの水素爆弾の破壊力は、ヒロシマの約1,000倍であったと報告されている。冷戦下にこの威力に対抗した旧ソ連は、1961年10月「ツァーリ・ボンバ実験」で50メガトンの水爆を破裂させた。この史上最大の恐怖の核の威力は、ヒロシマ原爆の約3,800倍と推定されている。
さらに冒頭で人類が核のパンドラを開けて以降、2,000回以上の核実験が繰り返されていることを述べたが、国際原子力機関(IAEA)の核実験報告書をみると、実験に利用された場所は砂漠や地下トンネルや海水中だけではない。500回を超える成層圏・大気圏内での核実験、そしてアメリカやソ連は核弾頭を遥か宇宙空間で爆破させる高高度核実験を20回以上も実施している。1962年の米国のスターフィッシュプライム実験では、人工衛星の破壊のみならず地上にも停電被害を引き起こした。成層圏・大気圏での実験は地球半球全体に汚染物質が拡散して地上にセシウムCs137の雨を降らすため、海洋・植物・農作物を含むあらゆる汚染を齎す。取り返しのつかない事態を避けるため1996 年、東西冷戦が終結した後、宇宙空間を含む大気圏内外であらゆる核実験を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)が交わされた。そして現在、核兵器不拡散条約 (NPT) は日本を含む世界191の国と地域で締約されている。しかし2021年1月1月22日に世界50以上の国が批准し発効された核兵器禁止条約(NWC)を、日本は唯一の戦争被爆国でありながら未だ批准していない。米国の核の傘下にあること、さらに核を保有する2つの隣国である中国と北朝鮮の脅威がその理由である。
「核なき世界」を提唱したバラク・オバマ大統領の路線をバイデン大統領は引き継ぐことが出来るのか。アブラハム・マズローは「過去を悔やみ、未来を案じるのも結構だが、行動できるのは今だけだ」と言葉を残している。広島県出身の日本の新しい総理大臣の核軍縮政策に今世界が注目している。
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