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銃社会、格差社会と言われるアメリカ社会が変わりつつある
2021年11月2日に開票されたニューヨーク市長選挙は、民主党のエリック・アダムス氏が当選を果たした。全米最大の880万人を抱えるニューヨーク市長となったアダムス氏は22年間にわたり地域の警察に所属した人物で、110人余りの歴代市長の中で2人目の黒人市長である。
コロナ禍の病み覚めぬ2021年初夏のニューヨーク市では、昨年比で約70%も発砲事件が増えている。特に全米一の祭典となる7月4日のアメリカ独立記念日の週末だけでも、州内で51件もの銃撃事件が発生した。2021年7月初旬のアメリカ全土における銃撃事件による死者は、無残にも1週間当たり200人弱の命が犠牲となった。前年比25%増の銃撃事件発生という非常事態を受けて州知事のアンドリュー・クオモ氏は、全米史上初の「銃暴力に対する緊急事態命令」を州令として発効した。この度、警察出身の黒人であるアダムス氏がニューヨーク市長に当選した背景には、コロナ封鎖以降、あまりにも治安が悪化した市民の思いと、ニューヨークにおける黒人差別や格差に対する根深い問題に批判的な民意が込められている。
ニューヨーク市長選挙と同様のムーブメントはマサチューセッツ州ボストンでも見られた。11月2日に開票されたボストン市長選では、弱冠36歳ながらボストン市長史上初となるアジア系・台湾系2世の女性市議であるミシェル・ウー氏が当選した。ボストン市長選で非白人が当選するのも、女性が当選するのも、ともに初めての快挙である。さらにオハイオ州シンシナシティ市では、インド人とチベット人を両親に持つ39歳のアフタブ・ピュアバル氏が当選している。ワシントン州シアトル市長選挙でも日系人の母をもつブルース・ハレル氏が当選している。人種的マイノリティーであるアジア系移民の流れを引く4人の新しい市長は、ともにアメリカ社会における人種問題や低所得層に対する政策が厚い支持を受けての当選となった。
この度のニューヨーク市、ボストン市、シンシナシティ市、シアトル市の選挙の結果を胸に、ちょうど13年前、2008年11月4日の独立記念日に米イリノイ州シカゴでジョン・マケイン氏に勝利した黒人初の第44代アメリカ大統領バラク・オバマ氏を、そしてさらに1963年にリンカーン記念堂の前に25万人が集結しマーティン・ルーサー・キング牧師が演説した"I have a Dream."を思い返した米国民も多かったことだろう。
近年の米国社会における差別や格差を乗り越えようとする動きの原動力に、ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動がある。白人警官による無抵抗な黒人への暴力行為やアメリカ社会の構造的な黒人・アジア系に対する人種差別の撤廃を訴えるこの運動は、2012年に黒人少年が白人警官に射殺されたトレイボン・マーティン射殺事件以降、様々なSNS上で#BlackLivesMatterというハッシュタグを介して徐々に全米各地に知れ渡たる。そして2020年に追従するように起きたジョージ・フロイド事件を契機として、アメリカ全土を巻き込む大規模デモ行進に発展した。人間の差別や格差を問題視するその理念は、今や全世界へと拡散している。
暮らしも経済も大きな打撃を受けたポストコロナのアメリカ社会において、人種的マイノリティーが大都市の長に選ばれた一連の選挙結果は、昨今のBLM運動も相まって、銃規制・人種差別・社会構造的格差という米国が長年抱えてきた3大問題に対して人々の考え方が動き始めた証ではないだろうか。銃社会、格差社会と言われるアメリカ社会が少しずつ変わりつつある。
Eric Adam Wins in NYC, Capping Ascent From Cop to Mayor-Elect. Bloomberg, 03/November/2021.
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