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My Opinion2021.11.12

私は宇宙空間で暮らしたいとは思わない

 1945年に始まった東西冷戦の時期、米のアポロ計画とソビエト連邦のソユース・ボストーク・ルナ計画は、互いに国家の威信をかけて月の制覇争いを繰り返した。しかし1989年の冷戦終結後、アメリカとロシアは宇宙環境を人類共有の大切な資源であると則り、先進諸国と互いに手を取り合う宇宙開発にシフトした。1998年11月より軌道上で組み立てが開始された国際宇宙ステーション(ISS)は、その後22年余りの施行を経て、ついに2021年7月に全貌の完成を遂げた。現在ISSには、アメリカ、ロシア、日本、カナダ、EU宇宙機構など世界15カ国が参加しており、2024年までの共同運用が予定されている。ISSが完成した昨年以降は、民間の巨大IT企業が出資するロケット宇宙船が参入するプロジェクトが増えている。

 一方、中国はISSの提案する国際共同計画に参加することなく、独自の宇宙計画を断行してきた。当初、ISS加盟国側は中国が提案する宇宙計画について、その実現性を疑問視していた。しかし2008年9月27日、中国初の有人宇宙船「神舟7号」が宇宙遊泳に成功したニュースが世界を巡り、中国は名実ともにISS加盟国と並ぶ宇宙開発先進国へと台頭した。以後、中国は胡錦涛から習近平国家主席へ宇宙開発のバトンを繋ぎ、2020年代に自国の宇宙ステーションを実現するという目標を掲げて巨額の資金を投入している。「天宮号宇宙ステーション」と名付けられた宇宙計画はその後も着々と進行し、2021年4月に軌道高度地上425Kmのコアモジュールの打ち上げに成功した。2022年末には次のコアモジュールパーツを打ち上げドッキングさせる計画があり、その後も数年毎にステーションの規模を拡大させ、最終的に総重量80トンの巨大宇宙ステーションを築くという。


 中国そしてISSの国々が宇宙開発に全力を注ぐ目的は幾つかある。地球上に溢れる人口爆発を抱える空間を宇宙に求める計画があることは想像に値するが、月や火星の地下に眠る様々な未知の鉱物資源を開発し、独占応用したいとう国家の目論見もある。さらに人工衛生の包囲網をより上空から占拠する宇宙空間ネットワークを構築することで、情報戦線で有意に立ちたい戦略もある。しいては宇宙から24時間くまなく他国の状況をナビゲーション管理する軍事応用として、宇宙空間から標的を定めて兵器を落とし込む宇宙配備型の落下式兵器の配備が開発されつつある。今や宇宙空間から割り出される位置情報の正確さは直径1m以内に絞りこむことが十分可能であり、しかも地上モニターから迎撃することが困難という落下兵器は、放射能汚染を来さないにも関わらす隕石同様の破壊力を秘めた核爆弾に変わる極めて刺客性の高い次世代兵器なのである。


 さて、かつては米ソが、そして昨今中国が参入する宇宙開発競争であるが、今年になりまた次の次元の争いが展開している。人類の宇宙への欲求は、世界の大国が先を争い宇宙開発を目指した時代から、資金豊かなベンチャー起業・ベンチャーキャピタルが、我先へと宇宙開発事業に参入する時代を迎えているのだ。宇宙開発分野のトップを牽引するベンチャー企業のフロントライナーといえば、米ヴァージン・キャデラック創業者でCEOの英国人実業家であるサ―・リチャード氏、米アマゾンの創始者でCEOのジェフ・ベゾス氏、そしてテスラモータースCEOのイーロン・マスク氏の3氏であろう。


 2021年7月11日、米ヴァージン・キャデラックCEOのサ―・リチャード氏は、ベゾズ氏とマスク氏より先陣を切り、宇宙観光事情を実現した。高度85Kmに到達した同社初の有人飛行には、社長であるサ―氏も3人のパイロットと3人の社員と共にロケット宇宙船「ユニティ」に搭乗し、遥か高度から地球を眺めた。サ―氏は2004年に宇宙観光事業を行う会社としてヴァージン・キャデラックを設立。民間人を対象とする宇宙旅行事業化が軌道に乗るにはまだ月日はかかりそうだが、約2,750万円の手付金を支払った乗客リストには、世界中の億万長者らを中心として既に600人以上が名を連ねているという。

 サー氏の搭乗に遅れること僅か9日の2021年7月20日、今度は米アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏が自社の宇宙船に搭乗し、高度100Kmの旅に成功している。高度何Kmからが宇宙かという愚問がないわけではないが、海抜100Kmには通称カーマン・ラインと呼ばれる宇宙と大気圏を隔てる仮想の境界線がある。ベゾス氏の主張では「カーマン・ラインに達しなかったサー氏のプロジェクトは厳密には宇宙旅行とは言えない」とサー氏の宇宙事業を批判している。フォーブズの世界ビリオネラーランキングで2021年まで4年連続世界一、個人資産2,000億USD(日本円で約20兆円)を誇るベゾス氏は、2000年9月に航空宇宙企業であるブルーオリジンを自ら起業した。それから20年の時を経てブルーオリジン初となる有人宇宙飛行を実現した。搭乗したのは57歳のベゾス氏、53歳の弟であるマーク・ベゾズ氏、1960年代の元宇宙飛行士でこの度世界最高齢の宇宙飛行士となる82歳女性のウォリ・ファンク氏、そして僅か1座席だけインターネットオークションに懸けられた貴重な搭乗券を父に31億円で落札してもらい史上最年少の宇宙飛行士となった18歳の少年の3人の老若男女である。ベゾズ氏は社長として自ら搭乗し、3人のクルーと共に10分10秒間の地球を眺める宇宙飛行の体験を現実のものとした。僅か10分余の時間ではあるが、民間人宇宙飛行士となったジェフ氏の人生最高の宇宙体験は、その後の人生観に革命的な変化を起こしたと自ら語っている。ベゾズ氏の宇宙開発の目的は、サー氏が計画する宇宙観光事業とは一線を画する。ベゾス氏の壮大な考えは「美しい地球を眺めるのことが目標ではなく、真意は人類の未来と地球環境を保護し救うこと」であるという。

 この分野3番目の大手となるテスラ社CEOのイーロン・マスク氏のスペースX社は、2020年に自社開発ロケットである宇宙船クルードラゴンに民間人を搭乗させ、初めてISSまで運んだ。この実績は民間人の宇宙移住を見据えた初めての快挙である。2021年4月23日には、JAXAの星出彰彦宇宙飛行士がケネディ宇宙センターからこの船に乗り込んでISSに到達している。そして11月9日にはISSから星出氏を含む4人のクルーが宇宙環境での任務を終えて、およそ半年ぶりに地球に帰還した。つまり星出氏は今年4月に米国テスラ社CEOのイーロン・マスク氏が出資するスペースX社の宇宙船クルードラゴンに乗り込みISSに到着し、約半年の任務を終えての帰還したのだ。この度の星出氏のミッションの新規性は、メディアにみる日本人宇宙飛行士の活躍などではない。多国間による協定で国際運営されるISSに、民間のロケットが乗り入れした点にある。つまりクルードラゴンがISSに星出氏らを送り込んだこの度のミッションの成功は、民間企業が宇宙観光事業に参入する過程の新しい幕開けを意味したのである。


 スタンリー・キューブリックとアーサー・C・クラーク脚本の『2001年宇宙の旅』の舞台となった年から20年の月日が流れ、マスク氏は次なる構想に向けて動き始めているという。それは2026年までに火星に人類を送り込むという計画だそうだ。人類史上、初めて火星の大地に足を踏み入れる人物がCEOのマスク氏本人か否か、まだその具体的内容は明らかにされていない。しかし地球を救うゲームチェンジャーとなるに最も近いポジションに位置するサ―氏、ベゾズ氏、マスク氏の3名に今直ぐ考え直して欲しい人類のミッションは、美しい地球を遠く宇宙船から眺めることではなく、足元から見つめ直すことではないだろうか。私は人類の一人として宇宙空間で暮らしたいとは思わない。未来の人類がいつまでも地球で健やかに暮らしていけることを願う。

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