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My Opinion2021.11.24

東京五輪閉幕は感無量だが、無償の喜びではない

 2021年9月5日に東京五輪が閉幕してから75日が過ぎようとしているが、五輪を招聘した政府から国民に対する最終的な出資額や経済波及効果に対する正式な報告はない。その一方で今年8月26日に発表された関西大学の研究者データによると「経済効果は約6兆1,442億円、一方で組織委員会や国、東京都の赤字額は2兆3,713億円」とする報告書が出された。この報告書の推定収支額がどこまで正確な数字か、実社会で検証されるには相当の時間を要する。しかし開催前に東京都が見込んでいた五輪の経済効果は、試算32兆円と非常に強気であり、当然、日本全体の波及効果は都の試算の遥か上の額であった。ところが、いざ五輪が終わってみると、東京都は最終報告の検証が未定であると報告し、そして国は2022年2月に開幕する北京五輪の外交ボイコット問題へと政治的関心がシフトしている。医療危機のコロナ禍で五輪不要論が高まる中、国際オリンピック委員会(IOC)と共に政府主導で断行された東京五輪であったが、喉元過ぎれば熱さを忘れたようである。現状、国も東京都も五輪の大赤字の責任を、互いに押し付け合っているように思えてならない。 


 企業や組織で何かしら新規の事業に挑むならば、統計学者ウィリアム・エドワーズ・デミングが提唱したPDCAサイクルに準じた事業計画が敷かれるのが常で有ろう。必ず予算案を含めた事業計画(Plan)があり、その計画を元にイベントが実行(Do)され、終了後にはその評価(Check)、そして改善または次の行動(Act or Action)を行わなければ、つまり最終的な収益をきちんと評価した事業報告書を作成しない事には、改善を糧とした次の新事業を立ち上げる際にシェアホルダーの理解を得ることが難しくなる。強みを生かして社会に貢献することで利益を上げ続けるのが企業ならば、利益評価と次に向けた改善策を講じない事には、継続的な事業展開は持続不可能であり、いずれ事業は縮小し、倒産するか買収されることを避けられない。国の中央政府の借金である国債の発行残高が1,000兆円、プラス地方債が200兆円と、日本に1,200兆円の赤字があれども、その収入財源は国民の税収であり、経済活動が止まらない限り途絶えることは有りえない。今さら五輪収益に見込まれていた30兆円が赤字に転じても、国家が潰れる訳もなく、首相も大臣も政治家個人の誰にも痛手が及ぶことはない。


 新型コロナウイルスが拡大する以前、東京都が何故これだけ強気の試算を弾けていたのだろうか。その理由は、2013年に初めて1,000万人を超え、その後も毎年急拡大していた訪日外国人旅行者がもたらす莫大なインバウンド消費であった。少子化対策が上手くいかず人口減少に歯止めがかからない日本では国内需要の縮小が問題になっていたが、その反旗を翻したのが外国人旅行者の増加による外貨流入であった。もし五輪が開催され、日本の観光資源、伝統文化、IT・アニメ・電化製品などのサブカルチャーの魅了が増せば、都市経済は飛躍的に活性化し、二次的な地方創生効果も期待されていた。計画のお膝元の観光庁では、2020年には4,000万人、2030年には6,000万人もの訪日客数増加の目標を掲げていたのだ。

 さらに海外諸国と比較して、日本の訪日集客力が強い理由がもう一つある。それは日本の海外旅券であるパスポートの強さだ。パスポートで行き来できる国とは、すなわち国交が樹立されている国の事である。つまりその国の数の多さは、国際的な信用度に比例する。英国のヘンリー&パートナーズが毎年発表している世界パスポートランキングによると、2021年の国際航空運送協会(IATA)に加盟する199種類の旅券と227の国や地域でビザなしで渡航できる国家ランキングで、日本は193の国と地域に渡航可能と、2018年以降4年連続で世界一位を記録している。先の東京五輪においても、IOCに加盟する206の国と地域において参加できなかった国はコロナウイルスを理由に不参加を表明した北朝鮮のみであり、夏季大会史上、過去最高となる世界205の国と地域から参加があった。IOCの力もあり、コロナ禍にも関わらず世界中から多くの選手が日本を訪れ、己の身体が成せる極限レベルで競技を繰り広げた東京五輪、企画から開幕迄の過程において、公式マークの変更や女性アスリートに対するジャンダー蔑視発言で元首相の森喜朗会長が辞任するなど、数多くの問題が起きた大会ではあった。しかしスポーツの力が織りなす無数の感動やエネルギーを、開催国である日本の地から世界に発信出来たことは無上の喜びであり、感慨無量である。だが、規模の大きな催しには様々な思惑や利害関係、加えて巨額の資金が絡んでおり、その財源の多くが我々の税金から出資されていることを忘れてはならない。だからこそ尚更、政府には詳細に経済波及効果を評価する重大な責任があり、改善を元に次の国家事業に繋げて頂きたいのである。無事に五輪が閉幕したことは感無量である。しかしその喜びの実態が、経済を無視した「無償の喜び」であっては、けして済まされない。




経済効果は約6兆1,442億円ー関西大学 2021/08/26

https://www.kansai-u.ac.jp/ja/assets/pdf/about/pr/press_release/2021/No21.pdf

五輪の経済効果、強気の試算32兆円 のはずが 朝日新聞 2021/09/20 https://www.asahi.com/articles/ASP9N4QV9P99UTIL044.html

2020東京五輪の経済効果は30兆円規模 みずほ総合研究所 2014/12/19 https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/mhri/research/pdf/today/rt141219.pdf

世界最強のパスポート、21年も日本がトップ維持 CNN 2021/04/14 https://www.cnn.co.jp/travel/35169309.html

写真引用: 2021 Getty Images

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