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民間人のSNSによって暴かれる兵士個人の戦争犯罪
ロシア軍が進駐していたウクライナの首都・キーウが解放された。しかし、市街地に残されていたのは崩壊した建物だけでなく、惨くも多くの民間人の遺体であった。被害状況に関するウクライナ検察当局の発表によると、キーウ近郊ブチャでは、子ども167人を含む410人もの遺体が確認された。北西部ボロディアンカでも、200人以上の遺体が発見され、同州ホストメリでは村長が殺害され、住民400人以上が行方不明のままである。惨劇は首都北部のスクイやチェルニヒウでも起きたとみられている。占領下における民間人や捕虜の取り扱いについては、ジュネーブ条約第3条の規定により、抑留国は捕虜に対して人道的待遇の義務を負い、報復や拷問は禁止されている。
一連の事態に対してウクライナ軍当局は、撤退したロシア軍が民間人の遺体を運び出し、大量虐殺、つまりジェノサイドの痕跡を隠蔽工作した可能性を指摘している。さらにベネディクトワ検事総長は、ロシア軍による約5,000件の戦争犯罪について科学捜査を進めている。この操作が訴追するのは、プーチン大統領が犯した国際法違反だけではない。ウクライナ民間人の殺人犯罪に関与したと推計される、約2,000人におよぶロシア兵個人の人道法上の責任についても調査を進めているという。しかし、その数が幾千になろうとも遺体が口を開くことはない。秘密裡に闇の中に証拠が消し去られてしまう戦争犯罪の捜査とは、いかなる軸の手法なのだろうか。
第二次世界大戦当時、戦場や占領下で如何に醜い戦闘が繰り広げられていたのか。当時の民間人は、政府がプロパガンダとして企てた戦争画や、自軍の正義と相手国の卑劣さが掲載された新聞からしか、その事実を知る術がなかった。しかし東西冷戦時代、米ソがアポロ計画とソユーズ計画に国の威信を掲げて月の覇権を争ううちに、両国が多数の人工衛星を打ち上げたことで、人類は衛生通信技術を手に入れた。そして1990年8月、イラク軍のクウェート侵攻を契機に、多国籍軍がイラクを空爆した湾岸戦争が勃発する。この時、世界は初めて戦場以外の場所から衛星中継を通じてリアルタイムに戦争のTV映像を見る体験をしたのだ。戦地に赴くことなく画面に映し出される惨劇は、リアルであるにも関わらず視聴者がイマジネーションを働かせないことにはSF戦争映画と同じである。その映像で身体が血を流し傷を負うことはない。得てして通信科学が齎した情報機器の発展は、さらなる戦争犯罪への応用を招いてしまう。
2001年に勃発したアフガニスタン戦争では、米連合軍と国籍を持たないテロリスト集団・タリバンが、世界を巻き込む泥沼の戦いを展開した。この時、戦略的に応用されたのがインターネット通信技術である。世界中で同時多発的に繰り広げられた自爆テロ攻撃では、犯罪予告とともに、テロ後にインターネット上の闇サイトから犯行声明がアップされては、数時間後に消し去られていた。ネットとテロ行為を自在にクロスさせることで、大都市の中心部に惨禍を招いたテロ攻撃は、インターネット技術に落とし込まれた予測事態不能な戦争犯罪の手法である。
然るに、この度のロシア対ウクライナ戦争においても、ロシア軍はドローンによる攻撃だけでなく、インターネット戦略を駆使したフェイクニュースを展開している。インターネット犯罪を暴く事の難しさを逆手にとったフェイクニュースを、個々のエンドユーザーレベルで真偽識別できる時代は当に過ぎ去った。現に情報統制されたロシアでは、国民がキーフのジェノサイドを認識するツールがない。一方のウクライナ軍国家検察は、約4,150万人のウクライナ全国民が戦況下で利用したソーシャル・ネットワーク・サービスによるSNS写真情報による通信傍受を解析し、得られた映像と衛星画像によるロシア軍の行動を照らし合わせてた画像を追跡している。殺害された命が戻ることはなくとも、戦況で送受信された様々な情報には、真実のリアルな戦争情報が含まれている。当然、プライバシーの権利は保護されるべきであるが、国家存続の危機にあるウクライナでは全体の利益が尊重される。遺体となった個人のスマートフォンには、無数の虐殺映像が収められることだろう。これらの映像と文字情報を分析することで、ウクライナの罪なき民間人を殺害した推計約2,000人のロシア兵の個人情報を暴きだすことが可能になるのだ。
ウクライナは解析情報を元に、ロシア兵の個人が犯した戦争犯罪について、国際人道法に則り国際司法裁判所、および国際人権裁判所に申し立てる準備をしている。国際社会のメディア情報に個人レベルのSNS情報を掛け合わせた千里眼が、節穴であるはずがない。数々の証拠が揃いながら、国連常任理事国に居座るロシアはいつまでフェイクユースの方便を主張し続けるつもりなのだろうか。
翻るに、SNS情報というリアルな証拠により戦場における個人の戦争犯罪が大規模に暴かれうる事態について、今、世界の弁護団が議論を交わしている。なぜなら人類の戦争史において、一人の兵士が戦場で如何なる行為を犯したのか、その一挙手一投足が後方視的に立証され、国際裁判の舞台で一人一人の軍曹以下の階級の兵士が裁かれた先行判例は極端に少ないからである。個人は人権に関する国際法規則の保護対象であり、権利侵害があった場合、該当機関に請求を提起する法主体となる地位を有する存在である。しかし、個人が国家の指示や命令に基づいて不法行為を犯した場合、たとえそれが国家に認容された私人行為であったとしても、人道上の罪を犯したのはあくまで個人である。そうした場合、罪の刑罰が個人に科されるのか、それとも国家に帰属させるべきものなのか。戦時下における国家と個人が犯した国際法上の義務違反行為が、どのような法的解釈のもとで裁かれるのか。一日も早い両国の停戦合意を願うとともに、その後の国際裁判の行方についても丁重に関心を注ぎたい。
【参考URL】
https://www.bbc.com/news/60981238
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-60992231
検証 ウクライナ・ブチャの住民殺害 衛星画像がロシアの主張を否定 (BBC news: 6/April/2022)
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